0.はじめに
小学生の頃までは、テレビから流れてくる音楽や商店街でかかっている音楽などを聞くともなしに聞いていたわけだが、昭和の高度成長期の真っ只中、軍歌演歌歌謡曲コミックソングやテレビ漫画の主題歌にCMソング、etc.が巷に溢れ出し、それらに揉みくちゃにされながらも猥雑と節度のバランスがとれていた世の中を、笑い泣き驚き悩み羨み威張り巫山戯合い助け合って精一杯生きていた。
多くの人は気に入った楽曲を自ら選択して聞くということはなかったと思う。ただし裕福な家庭にはステレオがありレコードで音楽を楽しんでいたようだ。
「歌は世につれ世は歌につれ」と誰が言い始めたのか?
「一週間のご無沙汰でした。玉置宏でございます」で当時一世を風靡した玉置宏アナウンサーがよく言っていたような気がするが定かでない。アポロ11号月着陸、大阪万博、三億円事件、様々な出来事が思い浮かんでくるが、聞いても聞かなくてもいつでも歌がBGMとしてそこにはあった。
心に残るものを思いつくまま少しあげると、
「お富さん」(春日八郎)、「野球小僧」(灰田勝彦)、「イヨマンテの夜」(伊藤久男)、「新聞少年」(山田太郎)、「悲しい酒」「柔」(美空ひばり)、
「ブルー・シャトウ」(ジャッキー吉川とブルー・コメッツ)、「また逢う日まで」(尾崎紀世彦)、「こんにちは赤ちゃん」(梓みちよ)、「小指の思い出」(伊東ゆかり)、「黒ネコのタンゴ」(皆川おさむ)、「老人と子供のポルカ」(左卜全)、などなどなどに加えて、「鉄人28号」「鉄腕アトム」「スーパージェッター」「巨人の星」「パーマン」といったテレビ漫画主題歌が山のようある。
なんにせよ、能動的に聞いていた楽曲ではないし、余りにもジャンルが雑多なため後日整理したうえで記事にしたいと思う。
中学生になるとラジカセなども生まれ、エアチェック(ラジオから録音)で好きな音源を漁るのが楽しみとなった。つまり好きな楽曲の選択が可能になったということだが、それから高校大学まで洋楽にニューミュージック、アイドルソングなどなどと、自ら選んだにしても膨大すぎる量の楽曲を聴いていたわけで、やはり記憶の痕跡を整理するところから始めないと記事にしづらすぎる。
言い訳が長くなったが、まずは還暦を過ぎた今でもふとしたおりに聴く楽曲、DAP(私の場合ウォークマン)に登録済のものについて書き連ねてゆこうと思う。
1.ウオークマンで愛聴している楽曲。
☆ 女性ボーカリスト(国内) (1)
「吉田美奈子」・・・アルバム「EXTREME BEAUTY」
稀有。「夢で逢えたら」がヒットしたため、私も若い頃から名は知っていたが、社会人になってもしばらくはまともに聴いたことがなかった。自分の好みには合わなさそうだという先入観があった。
ある日車の運転中にFMラジオでかかった曲に、その歌い方に心ひかれた。ソウルのようなゴスペルのような雰囲気が心地良く、これはちゃんと聴いてみたいと思った。それが「吉田美奈子」の「星の海」という曲だった。今はこんな感じなんだと興味が湧き、CDアルバム「EXTREME BEAUTY」を購入した。
素晴らしかった。彼女はこういうことがしたかったのか、もっと早く知りたかったなという思いであった。アルバム冒頭の「VOICE」から中盤の「LIBERTY」、ラス前の「精霊の降りる街」、そしてラストの「星の海」まで、圧倒的な彼女の世界が創出されていた。祈りを力強く宣布するような、だが強引ではなく人知の及ばぬ何者かに身を任せるような、特別な空間を生み出せる才能に驚いた。
想像だが、かなりセンシティブ、であるがゆえに他人様に迷惑をかけまいとする真面目な人のように感じた。知的で穏やかな佇まいだがパフォーマンスとなると人が変わる、アーティストとして理想的なのではないか。
「RURUTIA」・・・アルバム「R゜」
囁声(ハスキー寄り)の歌姫。amazonでジャケ買いだったが大当たりだった。彼女の感情が溢れ出し空中を舞い踊り私の胸を刺し貫く。当時は国籍など詳細を明らかにしていないようだったが今はどうなのか。そもそも活動しているのか? コアなファンがいるようだが、おそらくTVなどの表舞台にはあえて出演を控えているようだ。
死の隣に立ち生命力を絞り出すような歌い方、見え隠れする母性と甘い狂気。素晴らしい。
アルバムのどの曲も良いが、2曲目の「知恵の実」から「愛し子よ」「ロストバタフライ」と続く3連に心囚われた。アルバム「WaterForest」もすぐに購入し、「ゆるぎない美しいもの」に脱帽し陶酔した。静かに降る雨の森の奥、深夜の山小屋で独り聴けば異界の罠にはまり帰ってこられなくなるだろう。
「谷山浩子」・・・アルバム「花とゆめ」
奇才にして天才。Disc2枚組のアルバムであるがゆえに彼女の微笑ましき狂気がよく伝わる。
「猫の森には帰れない」で知った。大学の受験勉強中にラジオから流れてきた。それ以来「すずかけ通り三丁目」「河のほとりに」「あたしの恋人」「まもるくん」…と聴くうちに、狂気が日常の世界があるのだなと悟った。当時、ユーミンや中島みゆきが世にその才を見せつけていたのだが、私は谷山浩子の才が上回るとずっと思い続けている。
誰も並び立てない。唯一無二の普通であり異常世界の日常を世に知らしめるために使わされた異人。
追記:
実家の整理をしていたらLPレコードがでてきた。「鏡に中のあなたへ」「猫の森には帰れない」「もうひとりのアリス」。おいおい、1970年代のアルバムじゃん。中高生の頃か…買った覚えがない。この頃聴きまくっていた女性歌手は、オリヴィア・ニュートン=ジョンのはず。混乱した。あの頃から魂の共感を覚えていたのかなぁ。不思議な現実。それとも還暦過ぎてボケた?
「古内東子」・・・アルバム「Distance」
100%恋に生きる? 40歳前後だったと思うが、どうして知ったのか覚えていない。初めて購入したアルバムは「恋」。次が「Distance」かな。とにかく声色が好みで心地良い。男性ファンは少ないと聞いていたが知ったことじゃない。気に入るかどうかだ、趣味だもの。
どの歌詞も曲調もどこか切なさを覚える。恋そのものに負けぬよう正面から立ち向かおうとする健気さと、なぜか懐かしさを覚える。
冒頭の「Distance」でいきなり彼女の世界に引き込まれる。特に「BYE」「もしかしたら」が良い。男の私だが、似たような経験があった…のかな。
背筋を伸ばした弱気、好きでたまらないからこそ自らの心をあえて裏切る。そして余計に忘れられなくなることに悩みつつもそれがやがて救いになることに気付く。若い男性にこそ聴いてほしい。夜の高速道路を行先を決めず流しながら聴くのもよろしい、よ。
「青山恵子」・・・アルバム「うぐひす~日本のうた世界」
正統の凄味。東京藝大声楽科卒後、大学院で博士号まで取得している才媛。元々はメゾ・ソプラノの歌手のようだが民謡や唱歌を含む邦楽にも精通しているとのこと。
冒頭の「うぐひす」には仰天させられた。素人の私にでもわかる超絶技巧的歌唱。正真正銘の本物。
おそるべき上質な歌手はほかにもいるはずだが、庶民の認知度は低いことが多い気がする。テレビ番組への露出度で認知度が決まってしまうのだろう。鮫島由美子という素晴らしいソプラノ歌手の認知度はけっこう高いと思うが、NHKの紅白歌合戦に出場したことがあるからかもしれない。
世間的には無名だが賞賛すべき資質実力の持ち主を発掘し世に紹介するのも、NHKの本来すべき役割のはずだ。すでに紹介済みならごめんなさい。
アルバム8曲目の「叱られて」、11曲目の「この道」、よく知られた楽曲だが感情を露わにしすぎず正しくしかし情感豊かに歌う。真っ当過ぎるほど真正な歌手であり佳人。
追記:
当アルバムは製造中止となったらしい。ただし。「うぐひす」「この道」は、アルバム「青山恵子名歌集 紡ぎゆく歌ものがたり」にも収録されています。私の大好きな「赤とんぼ」もはいってます。
※後書き
続き(女性ボーカリスト(国内) (2))は、「ちあきなおみ」「元ちとせ」「ひなたかこ」「上野洋子」「柴草玲」を予定とする。心変わり有りということで(笑)
その次は男性ボーカリスト(国内)とする。「鶴田浩二」「美輪明宏」「米良美一」「吉幾三」「柳ジョージ」あたりになるかと思うが、あくまで予定。予定は破るためにある、なんてね。
「赤とんぼ」で思い出したが、アルバム「この道 童謡・唱歌の四季~リードオルガンとソプラノによる日本の叙情~」(青山恵子ではない)はとてもよい、おすすめ。
それにしても、「歌は世につれ世は歌につれ」…うまいこと言ったもんだなぁ。
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